八坂書房   2200円
                                                                著者:鈴木隆
 

人間は[嗅ぐ]者であると同時に[臭う]者である、と考える著者の新たな体臭擁護論。第
T部では口臭、髪の汚れ、フケ、大小便、おならなど、第U部では母乳フェロ モン
について解明する。

そして、『清潔文化』と『無臭志向』、『自己臭』から『性』にいたるまでを追求し、<匂い>
という視点から現代人の姿を浮き彫りにする。


[匂いの身体論関連サイト]

 

 

 

 



[特報]  新しい価値判断としての評価です。

日経サイエンス
 
     10月号/1998年に紹介記事が掲載されました!
 

Hot wire JAPAN

           オンラインニュースでも紹介されました。
 

読売新聞

     書評で紹介されました。
 

アロマトピア

      紹介されました。
 

フレグランス ジャーナル 
   
      紹介されました。
 

 


焼きたてのアップルパイが目の前にあるとしよう。リンゴの甘酸っぱい香りが食欲をそそり、思
わずよだれが出そうになる。つまんで一口食べてみると、味と香りが口いっぱいに広がるだろ
う。そして食後にコーヒーを飲んでみたらどうであろう。

しかし幸福な満足感にひたっていた数時間後に急に腹痛がして、トイレへ駈け込んだらそ
こには悪臭が。食べた芳香と後の悪臭。

赤ちゃんの頃の匂い、青春時代の匂い、中年の匂いそれから老人臭、人生の生活感の
中での匂い(芳香と悪臭、健康と不健康)にふれている。

筆者は香料会社に勤務し、化粧品や石鹸、シャンプー、洗剤などに使われる香料を創る、
いわゆる調香師パフューマーとも呼ばれる)という職に就いている。 そのため、普段から
さまざまな香りに接している、そこでの匂いにまつわる問題を考えている。

体が発する匂い、悪臭と感じる感性、匂いや臭覚が近代社会の中でどう扱われたか?さ
らに社会での背景と、化学書や専門書でない文系的な匂い論、身体論いや香りの心理
である。
 


______________________________________________________________________

        W I R E D  C O L U M N
_____________________________________________H O T W I R E D J A P A N

----------------------------------------------------------------------
[ C A V E ]オルタナティブバリューへのヒント(HOTWIRED JAPANより転載)
----------------------------------------------------------------------
http://www.hotwired.co.jp/cave/work/w22004.html

現代の無臭志向とは

匂いの身体論――体臭と無臭志向
鈴木隆
発行=八坂書房
                                                 By 木村重樹

 昨今の アロマグッズ やフレグランス商品 の流行は、「よい香り」
にたいする ひとびとの渇望を さし示しているが、同時にその裏腹に
ある、脱臭?消臭 といったデオドラント製品の 途方のない需要もま
た、尋常ならざるものがある。 頻繁な入浴習慣など、もともと清潔
好きで体臭の少ない日本人においても、潔癖症や自己臭症といった
過剰反応を みせる向きも 少なくない。「よい香り」によって癒され
ていくメンタリティ と、「嫌な匂い」 をオブセッショナルに  忌避す
るメンタリティ……。

 たとえばわれわれが 普段口にするものは (大雑把にいえば)「よ
い香り」がするものだ。 刺激臭や 腐敗臭といった悪臭のするもの
は、端的にいって 「毒」だから。 しかしどんな  「よい香り」のする
食べ物も、消化器官を 通り排泄物となると、これはまごうことなき
「悪臭」の塊だ。 大小便はおろか、おならや吐瀉物、げっぷや痰、
汗や唾液、鼻水や膿など、およそ身体から 出てくるものはあまねく
「臭い」 ものである という現実を、あらためて思い知らされる。つ
まり人間は、みずからが 匂いを「嗅ぎ」わける者であると 同時に、
自身が匂いを発する「匂う」存在でもあるのだ。

 そしてまた、現代社会に 生きる私たちほど、みずからの体臭や口
臭に気を使い、他人に臭いと思われることを極度に恐れている人種
もいない。匂いがしない/匂いを 消すことが一種強迫観念のように
追い求められている現在、 調香師(パフューマー)を 本業とする筆
者鈴木隆氏は、ヒトのからだが発する匂いの正体を解き明かし、匂
いや嗅覚が近代社会の中でどのように扱われてきたかを辿り、最終
的に体臭と人間との「理想的なあり方」にまで言及する。

 たとえば赤ん坊における母乳臭や生殖衝動を促進するフェロモン
のような ケースは、かろうじて 人間に残されている “生命的な営
み”にそくした 「匂い情報」の機能といえる。 しかし概して 「匂い
情報」なるものは、いわば理性や 脳によって コントロールできない
「非言語的」なもの として 「自然」や 「野蛮」と いったレッテルが
貼られ、近代主義的な文化の主流からは排除されていった。さらに
19世紀ヨーロッパの産業化?都市問題が引き起こした 「衛生観念」
の成立が、悪臭嫌悪に一層の拍車をかけた。かくして近代社会独特
の衛生意識が成立したところで、 無臭身体という「神話化」が成立
する。こうした衛生への関心と悪臭への嫌悪がひき起こす 「身体の
抽象化」は、生命なり医療の パラダイムが ドラスティックに変化し
ない限り、今後もしばらくはひき続くだろう……。

 だが、ここで少しばかり 意識をズラし、 「匂いを消す」 のではな
く「匂いを隠す」 という態度もあるの では?、というのが、 本書で
の著者の (ひとまずの) 結論だ。体臭は「ないのが当たり前」の状
態なのではなく、 「誰にでも明かすものではない」 という  インティ
メイトな存在なのだ、と。

 自然性や動物性を忌避しつつも、現代人がそれに執着を禁じえな
いものといえば、 ほかでもない 「セックス」 なる営為が それだろ
う。そして 「性の抑圧」 が社会通念や コミュニケーションの 変容に
よって変更を 余儀なくしいられているよう、 「匂いの抑圧」もま
た、ゆるやかに解除されて いく可能性は皆無ではない、 と。かくし
て体臭を インティメイトでパーソナル  なものとして扱う という態度
は……一方ではフェティシズムなどの性愛にも通じる態度だが……
「自分を大切にする」 というのは、そういう意識の 持ちようだった
りするのかもしれない。

By 木村重樹

______________________________________________________________________

______________________________________________________________________

        W I R E D  C O L U M N
_____________________________________________H O T W I R E D J A P A N

----------------------------------------------------------------------
[ C A V E ]オルタナティブバリューへのヒント(HOTWIRED JAPANより転載)
----------------------------------------------------------------------
http://www.hotwired.co.jp/cave/work/w07005.html

きみのからだのきたないもの学

シルビア・ブランゼイ:著/ジャック・キーリー:絵
翻訳=藤田絋一郎
発行=講談社
                                                 By 木村重樹

 「下ネタ」という言葉に集約されるよう、いわゆる排泄物をめぐ
る言説は“品のない/慎むべきもの”として社会的に抑圧されると
同時に、そうした禁忌に抵触する快楽をともなうことで“笑い”の
対象とされることもしばしばだ。

 さらにいえば、子供たちはこうした「下ネタ」が大好きだ。ウン
コ、シッコ、オナラ・ブー……こういう言葉を意味もなく連呼し、
親や周囲の大人をとまどわせた経験は、誰にでもあるのではない
か。そうした子供の奔放さも、いわゆる社会常識やお行儀なるもの
によって端正されていくのだが、逆にゆきすぎた「汚物排除」の姿
勢は、時として神経症的な清潔症候群につながらないともいえず、
結果、病気への免疫力や社会への適応力を損なうような局面も見ら
れないこともない。

 「GROSSOLOGY」という原題をもつ本書は、そうした「人間の身体
から出る〈きたないもの〉」が、いったいどういう理由によって出
てくるのか?、その仕組みをわかりやすく解いた児童向け科学絵本
であり、本国アメリカでは1995年に刊行されるや、たちまち30万部
を越すベストセラーを記録した名著だ。

 ウンチ、おしっこ、ゲロ、げっぷ、おなら、つば、鼻水、耳く
そ、歯くそ、目やに、ふけ、かさぶた、そして汗や口や足のにおい
……こうしたヒトのからだから出る「汚物」は、人体の通常の営み
の結果として発生したものであり、原作者ブランゼイはこれらの
〈きたないもの〉を「かわいい生きもの」として説明してくれる。

 たしかにかつては、成分的にもまごうことなく自分の身体の一部
であったこれらの排泄物を、単に非衛生と忌み嫌うのではなく、そ
の役割を(医学的に)正確に認識することは、自分の身体にたいす
る新たな“気づき”の契機となりうるものだ。

 日本版の翻訳者である藤田絋一郎は、カイチュウ博士としてつと
に知られる人物。訳者あとがきにて藤田氏は、本書の内容と関連づ
けて「現代日本に異物排除の思想が広まっていった一方、人体が本
来もっていたはずの正常な免疫システムまでが脆弱化することで、
大腸菌O-157などの新たな感染症、花粉症やアトピー性皮膚炎などの
アレルギー病の蔓延などをひき起こしているのでは」という指摘を
する。

 また「若者を中心とした殺菌〜抗菌ブーム、ひいては自臭症(自
分のからだから発せられる臭いを毛嫌いすること)も、いささか
“ゆきすぎた”風潮」ではないか、とも。本書に記されている知識
は「オルタナティブ」というより、じつはしごく本来的なものだっ
たりするのだが、それが意外なほど「知られていない」実情がある
だけに、ある斬新な価値(バリュー)を子供たちにさし示すことだ
ろう。
★関連サイト/Grossology, the Scienceof Really Gross
Things http://www.webaddesign.net/grossology/

By 木村重樹